LLMアプリケーション開発の「設定方法」完全ガイド|LangChain構成と保守・運用視点まで徹底解説

 

はじめに|なぜLLMアプリ開発に「設計・設定」の視点が重要か

ChatGPTをはじめとする大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)の急速な進歩により、企業がAIを業務に取り入れる敷居は大幅に下がった。現在では社内チャットボットやFAQ対応、文書の自動要約など、多岐にわたる用途での活用が広がっている。

しかし、実際にLLMを使ったアプリケーションの開発・導入に着手すると、「APIに接続すればすぐに使える」という当初の期待とは異なり、設計・設定の段階で行き詰まる企業が少なくない。現場からは次のような声が頻繁に聞かれる。

  • APIキーの管理方法やセキュリティ面での不安が解消されない
  • LLMの処理能力やトークン制限といった技術仕様への理解不足
  • 開発委託先からの技術説明が不十分で、運用段階でのトラブルが発生する

こうした状況を踏まえると、単に「動作する」だけでなく、「安全かつ持続的に運用できる」LLMアプリケーションの設計・設定がますます重要になってきた。

本記事では、LLMアプリケーション開発で見落とされやすい設計・設定の要点を分かりやすく解説する。具体的には以下の観点から実務に役立つ知見を提供する。

  • なぜその構成を選択するのか
  • 開発環境をどのように整備すべきか
  • セキュリティや保守性をどの程度まで考慮すべきか

これらの疑問に対し、発注者・開発担当者の双方に有益な視点を示す。また、DIGILOが実際に支援した案件の事例も交えながら、単なる技術解説にとどまらず「信頼できる開発・運用パートナーの選定」にも活用できる内容を心がけた。

LLMアプリケーションの導入を検討している企業や、すでに着手しているが課題を抱えている企業にとって、実践的な指針となることを願っている。

LLMアプリ開発に必要な構成要素と全体像

LLMアプリケーションの開発では、必要な構成要素を整理することがプロジェクト成功の基盤となる。特に、セキュリティや保守性を確保しながら柔軟な拡張を可能にする構成を、プロジェクト開始時から設計に組み込むことが重要だ。

一般的な業務アプリケーションで求められる構成要素を、以下の5つの観点から整理した。これらの要素を適切に組み合わせることで、企業の実務に耐えうるLLMアプリケーションを構築できる。

  • 言語モデルの選択(商用API型 or ローカルLLM)
  • フレームワークや構成ツールの選定
  • フロントエンドとUI設計
  • セキュリティとアクセス制御の仕組み
  • 保守・監視体制の整備

これらの構成要素を体系的に検討することで、開発後のトラブルを事前に防ぎ、社内展開時の信頼性を高めることができる。次章では、これらの構成を実際のシステムとして具現化するための「開発環境の初期設定と構成例」について詳しく説明する。

1. 言語モデル(LLM)

言語モデルの選択は、LLMアプリケーションの性能と運用コストを大きく左右する重要な決定だ。現在、企業が選択できる主要な選択肢は商用API型とローカルLLMの2つに分かれる。

商用API型(OpenAI、Anthropic、Geminiなど)は、高い精度と導入の手軽さを強みとする。クラウドベースのAPIを通じてアクセスするため、初期投資を抑えながら最新の言語モデルを活用できる。ただし、機密性の高い業務データを扱う場合は、API提供元のセキュリティポリシーやデータ保護方針を詳細に検証する必要がある。また、API利用料金は使用量に応じて課金されるため、大量のデータ処理を想定する場合は、長期的なコスト試算が欠かせない。

ローカルLLM(LLama、Mistralなど)は、自社サーバ内で運用するため、高いセキュリティと広範囲なカスタマイズが可能だ。機密データの外部流出リスクを完全に排除できるほか、業務に特化したファインチューニングも実施できる。一方で、専用のハードウェア投資、モデルの管理・更新、運用保守といった技術的負荷が大幅に増加する。そのため、社内にAI関連の技術者がいない企業では、外部パートナーとの長期的な保守契約を検討する必要がある。

2. フレームワーク/構成ツール

LLMアプリケーションの開発効率と保守性を高めるためには、適切なフレームワークと構成ツールの選択が不可欠だ。特に複数の外部サービスとの連携や、継続的な機能拡張を想定する場合、統合開発環境の整備が開発期間とコストの削減に直結する。

LangChainは、LLMと外部データや各種機能(検索、データベース、APIなど)を統合しやすくする代表的なフレームワークだ。複雑な処理チェーンを構築する際の開発工数を大幅に削減できるほか、異なるLLMプロバイダー間での切り替えも容易に行える。また、豊富なコミュニティとドキュメントにより、開発者の学習コストを抑えられる点も大きな利点だ。

RAG(Retrieval-Augmented Generation)構成は、社内マニュアルやFAQデータベースなどの既存知識を言語モデルに組み込む設計手法だ。この構成により、一般的な言語モデルでは回答できない企業固有の質問にも適切に対応できる。特に、情報の正確性と再現性を重視する業務(法務、医療、金融など)では、RAG構成の導入が回答品質の向上に大きく寄与する。ただし、検索対象となるデータの品質管理と定期的な更新体制の整備が、長期的な運用成功の鍵となる。

開発環境の初期設定と構成例|LangChain×OpenAIを例に解説

LLMアプリケーションの開発を始める際、適切な開発環境の構築は、後の開発効率と保守性を大きく左右する。ここでは、多くの企業で採用されているOpenAI API×LangChainの組み合わせを例に、実際の環境構築手順を段階的に説明する。

この構成例では、Pythonベースの開発環境を前提とし、セキュリティ面での配慮も含めた実践的な設定方法を示す。また、開発チーム内での情報共有と、本番環境への移行を見据えた設計も考慮している。

開発環境の初期設定は、大きく4つの段階に分かれる。まず、API認証情報の取得と安全な管理方法を確立する。次に、Python開発環境の準備と依存関係の管理を行う。その後、基本的なLLMアプリケーションの動作確認を通じて、開発環境の正常性を検証する。最後に、セキュリティ面での追加対策を実装し、本番運用に向けた準備を整える。

これらの手順を順次実行することで、安全で効率的な開発環境を構築できる。また、各段階での注意点やトラブルシューティング方法も合わせて紹介する。

1. APIキーの取得と管理

OpenAI APIを使用するためには、まずOpenAIの公式サイトでアカウントを作成し、APIキーを取得する必要がある。この過程では、利用目的の明確化と、適切な利用制限の設定が重要だ。

アカウント作成とAPIキー取得では、OpenAIの公式サイトにアクセスし、組織アカウントを作成する。個人アカウントでも開発は可能だが、企業利用では組織アカウントの方が権限管理や請求書管理の面で利便性が高い。APIキーの生成時には、用途に応じて適切な権限スコープを設定し、不要な機能へのアクセスを制限する。

安全な管理方法として、APIキーは環境変数や設定ファイルで管理し、ソースコードに直接記述することは避ける。.envファイルを使用する場合は、.gitignoreファイルに必ず追加し、バージョン管理システムからの除外を徹底する。また、開発環境、テスト環境、本番環境でそれぞれ異なるAPIキーを使用し、環境間での混在を防ぐ。

チーム内での権限管理では、APIキーへのアクセス権限を必要最小限のメンバーに限定する。開発メンバーが多い場合は、OpenAIの組織機能を活用し、メンバーごとに異なる権限レベルを設定する。また、APIキーの使用状況を定期的に監視し、異常な使用パターンが検出された場合の対応手順を事前に策定しておく。

2. Python環境の準備

LangChainはPythonベースのフレームワークであるため、適切なPython開発環境の構築が必要だ。ここでは、バージョン管理と依存関係の隔離を重視した環境構築手順を示す。

Python環境の構築では、Python 3.9以上のバージョンを使用することを推奨する。macOSやLinuxでは、pyenvを使用してPythonバージョンを管理することで、プロジェクトごとに異なるPythonバージョンを使い分けられる。Windowsでは、Python.orgからの公式インストーラーを使用するか、Anacondaディストリビューションを選択できる。

仮想環境の設定は、プロジェクト固有の依存関係を隔離するために不可欠だ。venvモジュールを使用して仮想環境を作成し、プロジェクトごとに独立したPython環境を構築する。コマンドラインでの操作例は以下の通りだ:

python -m venv .venv source .venv/bin/activate # Linux/macOS .venv\Scripts\activate # Windows pip install langchain openai python-dotenv 

依存関係の管理では、requirements.txtファイルを作成し、プロジェクトで使用するパッケージとそのバージョンを明記する。これにより、開発チーム内での環境統一と、本番環境での再現性を確保できる。また、pip-toolsを使用することで、依存関係の更新管理を自動化できる。

3. 最小構成のチャットボットを構築する

開発環境の構築が完了したら、実際に動作するLLMアプリケーションを作成し、環境の正常性を確認する。以下のコード例では、LangChainの基本的な機能を使用したシンプルなチャットボットを構築する。

import os
from dotenv import load_dotenv
from langchain.chat_models import ChatOpenAI
from langchain.chains import ConversationChain
from langchain.memory import ConversationBufferMemory

# 環境変数の読み込み
load_dotenv()

# OpenAI APIの設定
llm = ChatOpenAI(
temperature=0,
openai_api_key=os.getenv(“OPENAI_API_KEY”)
)

# 会話履歴を保持するメモリの設定
memory = ConversationBufferMemory()

# 会話チェーンの構築
conversation = ConversationChain(
llm=llm,
memory=memory,
verbose=True
)

# チャットボットの実行
response = conversation.predict(input=”こんにちは、今日の天気について教えてください”)
print(response)

このコード例では、LangChainの主要な構成要素である言語モデル、メモリ、チェーンの使用方法を示している。わずか数行のコードで高度な会話機能を実装できることが、LangChainの大きな利点だ。

動作確認のポイントとして、まず環境変数が正しく読み込まれているかを確認する。次に、OpenAI APIとの通信が正常に行われているかを検証する。最後に、会話履歴の保持と、連続した対話の動作を確認する。

4. セキュリティ上の注意点

開発環境においても、セキュリティ対策は本番環境と同様に重要だ。特に、APIキーの漏洩防止と、不正な使用の検出は、開発段階から徹底する必要がある。

APIキーの漏洩防止では、ログ出力時にAPIキーが含まれないよう注意する。デバッグ用のprint文やログ出力関数で、APIキーやリクエスト内容を出力する際は、機密情報をマスクする処理を組み込む。また、エラーハンドリングでも、APIキーが含まれたエラーメッセージが表示されないよう配慮する。

認証とアクセス制御では、外部サービスとの連携時にOAuthやトークンベースの認証を使用する。Basic認証やAPIキーを直接URLに含める方法は、セキュリティリスクが高いため避ける。また、HTTPS通信を必須とし、証明書の検証も適切に実行する。

使用量の監視と制限では、APIの使用量を定期的に監視し、異常な使用パターンを検出する仕組みを構築する。OpenAIの使用量ダッシュボードを活用するほか、アプリケーション内でのトークン使用量を記録し、予算超過を防ぐための制限を設定する。

この構成を基盤として、次章では実際の業務環境での運用を想定した、より高度な設定について説明する。

実務で使える設定Tips|業務アプリに展開するための視点

プロトタイプから実際の業務運用に移行する際には、技術的な完成度だけでなく、現場の業務フローに適合した設計が求められる。ここでは、企業の実務環境でLLMアプリケーションを安定して運用するための設定上の重要点を解説する。

業務アプリケーションとしてのLLM活用では、システムの信頼性と業務効率の両立が必要だ。単発の利用では問題にならない小さな課題も、継続的な運用では重大な影響を与える可能性がある。そのため、入力制限、外部データ連携、出力品質管理、継続的改善の仕組みを体系的に整備する必要がある。

これらの設定Tips を適切に実装することで、LLMアプリケーションは現場の業務に溶け込み、従業員にとって「安心して使える道具」となる。以下、4つの重要な観点から具体的な設定方法を示す。

1. 入力制限とトークン管理

業務アプリケーションでは、ユーザーの入力内容を適切に制御することが、システムの安定性と運用コストの管理に直結する。特に、不適切な入力による予期しない出力や、過度なトークン消費による予算超過を防ぐための仕組みが重要だ。

入力内容の制限では、まず文字数制限を設定し、極端に長い入力による処理時間の延長やコスト増大を防ぐ。一般的には、一回の入力を1,000〜2,000文字以内に制限することが適切だ。また、業務に不適切な内容(個人情報、機密情報、不適切表現など)を検出し、処理前に除外する機能も必要だ。

トークン消費の最適化では、入力テキストの前処理により不要な情報を除去し、効率的なプロンプト設計を行う。具体的には、重複する表現の削除、不要な改行や空白の整理、業務に関連しない情報の除外により、トークン使用量を20〜30%削減できる場合がある。

利用量の監視と制限では、ユーザーごとの日次・月次利用量を追跡し、異常な使用パターンを検出する。また、組織全体の予算上限を設定し、上限に近づいた場合のアラート機能や、一時的な利用制限機能を実装する。これにより、予期しない高額請求を防ぎながら、適切な利用を促進できる。

2. 外部データとの連携(RAG構成)

企業固有の情報を活用するためには、RAG(Retrieval-Augmented Generation)構成による外部データとの連携が不可欠だ。社内マニュアル、FAQ、過去の事例など、業務に直結する情報を効率的に活用する仕組みを構築する。

データソースの整備では、検索対象となる文書の品質管理が重要だ。文書の作成日時、更新履歴、信頼性レベルを明確にし、古い情報や不正確な情報が検索結果に混入しないよう管理する。また、文書の構造化(見出し、段落、キーワードタグの付与)により、検索精度を向上させる。

ベクトル検索の最適化では、複数の文書から関連性の高い情報を抽出するために、適切な埋め込みモデルと検索アルゴリズムを選択する。OpenAIのtext-embedding-ada-002や、多言語対応が必要な場合はmultilingual-e5-largeなどのモデルを使用する。また、検索結果の件数制限(通常3〜5件)と、関連性スコアの閾値設定により、回答品質を向上させる。

データの更新管理では、業務情報の変更に対応するため、定期的なデータベース更新の仕組みを構築する。新しい文書の追加、既存文書の更新、廃止文書の削除を自動化し、常に最新の情報を提供できる体制を整える。また、更新履歴の記録により、情報の変更経緯を追跡できるようにする。

3. 出力制御と品質管理

LLMの出力品質を一定水準に保つためには、回答内容の制御と品質管理の仕組みが必要だ。特に、業務で使用する情報の正確性と一貫性を確保することが重要だ。

回答テンプレートの活用では、業務に応じた回答形式を事前に定義し、一貫した品質の情報提供を行う。例えば、技術サポートでは「問題の確認→解決策の提示→追加情報の案内」という流れを固定化し、ユーザーが理解しやすい回答構造を維持する。

不確実性への対応では、LLMが明確な回答を提供できない場合の対処方針を明確化する。「申し訳ございませんが、この件については専門担当者が個別に対応いたします」といった定型的な回答を用意し、不正確な情報の提供を防ぐ。また、回答に確信度を表示し、ユーザーが情報の信頼性を判断できるようにする。

出力の後処理では、生成された回答に対して自動的な品質チェックを実施する。文字数制限、禁止語句の検出、フォーマットの統一などにより、業務に適した回答を提供する。また、回答の保存とログ記録により、後の品質改善に活用できる情報を蓄積する。

4. ログ設計と改善運用

LLMアプリケーションの運用において、ログ設計は単なる記録作業ではなく、継続的な改善を支える重要な基盤となる。入力・出力・エラーのログは、システムの精度向上と業務効率化を実現する貴重な情報源だ。

特に注目すべきは、頻出キーワードや失敗パターンの分析である。これらの分析結果をもとに、プロンプト設計を最適化し、RAGデータの品質向上を図ることで、システム全体の回答精度を高められる。例えば、特定の質問パターンで回答が不安定になる場合、その傾向をログから読み取り、プロンプトの修正や追加学習データの投入につなげることが可能だ。

また、ログ設計では運用負荷の軽減も重要な観点となる。自動化された分析ツールを組み合わせることで、人的リソースを最小限に抑えながら、継続的な改善サイクルを回すことができる。こうした取り組みにより、LLMアプリケーションは「安心して使える存在」として業務に定着する。次章では、セキュリティと保守の視点から、より堅牢なシステム設計について詳しく解説する。

セキュリティと保守を見越した設計とは?

業務システムにLLMを組み込む際、セキュリティと保守の観点は単なる付加要素ではなく、システム設計の根幹を成す重要な要素だ。情報漏えいやシステム障害などの万が一の事態に備えた構造を、開発の初期段階から組み込むことが、長期的な安心運用の土台となる。

近年、AIシステムを狙った攻撃や、意図しない情報流出の事例が増加している。そのため、従来のWebアプリケーション以上に、多層的なセキュリティ対策が求められる。また、LLMサービスの頻繁なアップデートや仕様変更に対応するため、保守性を重視した設計も不可欠だ。こうした課題に対応するため、技術的な対策だけでなく、運用面でのガバナンス体制も同時に構築する必要がある。

1. セキュリティ対策

LLMアプリケーションのセキュリティ対策は、従来のWebアプリケーションの延長線上にあるものの、AIならではの脅威に対する追加の配慮が必要だ。まず基本となるのは、APIアクセス制御の徹底である。IP制限やリクエストのレートリミット設定により、不正利用や過度な負荷を防ぐ。特に、外部からの大量リクエストによるサービス拒否攻撃を防ぐため、適切な閾値設定が重要となる。

通信の暗号化も欠かせない要素だ。HTTPSでの通信は当然として、内部システム間の通信についても、機密性の高いデータを扱う場合にはTLS等による暗号化を施す。さらに、入力値のサニタイズについては、SQLインジェクションやクロスサイトスクリプティング(XSS)を想定した堅牢な入力バリデーション設計を行う。

LLM特有のリスクとしては、プロンプトインジェクション攻撃への対策も重要だ。悪意のある入力により、システムが意図しない動作をする可能性を排除するため、入力内容の事前チェックや、危険なキーワードの検出機能を組み込む必要がある。

2. 保守・運用計画

LLMアプリケーションの保守・運用では、従来のシステム以上に変化への対応力が求められる。まず重要なのは、モデルのアップデートポリシーの策定だ。API提供元のバージョン更新は頻繁に行われるため、影響範囲を早期にチェックし、適切な対応方針を定める必要がある。これには、テスト環境での事前検証や、段階的な本番環境への適用といったプロセスも含まれる。

ログモニタリングの仕組みも、保守運用の要となる。異常な利用パターン、例えば大量トークン消費や異常な応答時間の発生を検出し、即座にアラート通知する仕組みを設計する。これにより、問題の早期発見と迅速な対応が可能となる。

バックアップとフェールセーフの仕組みも欠かせない。システム障害時に備え、ログや設定情報の定期的なバックアップを行い、復旧用の代替構成を準備しておく。特に、LLMアプリケーションでは、プロンプト設定やRAGデータなど、システム固有の資産も含めたバックアップ戦略が重要となる。

3. 権限設計と内部統制

適切な権限設計は、セキュリティインシデントを防ぐ最も効果的な手段の一つだ。API利用者のロール分離を明確にし、開発・運用・監査といった役割に応じた適切な権限を付与することで、誤操作や情報漏えいを防止する。例えば、開発者には開発環境のみへのアクセス権限を、運用担当者には本番環境の監視権限を、監査担当者には読み取り専用の権限を付与するといった具合だ。

操作ログの保全と監査性確保も重要な要素となる。外部からのアクセスだけでなく、内部操作も含めた包括的なログ管理により、問題発生時の原因究明や、コンプライアンス要件への対応が可能となる。特に、個人情報や機密情報を扱うシステムでは、「誰が」「いつ」「何を」行ったかを正確に記録し、定期的な監査を実施する体制が求められる。

セキュリティと保守は「万が一への備え」であると同時に、クライアントとの信頼構築の根拠にもなる。次章では、こうした観点を持つプロジェクトマネージャーが、委託先とどのように連携すべきかについて考えていく。

プロジェクトマネージャーの視点で考える:再委託や保守体制設計のポイント

LLMアプリケーションの開発において、再委託先との連携や保守体制の構築は、プロジェクトマネージャー(PM)にとって従来以上に重要な課題となった。特に中小規模から中堅規模の開発会社では、開発リソースを補完するために外部パートナーと協力する機会が多く、その分だけ情報共有や設計意図のすり合わせが成果に直結する。

LLMアプリケーションは、従来のWebアプリケーションと異なり、プロンプト設計やRAGデータの品質が結果に大きく影響する。そのため、技術的な実装だけでなく、なぜその設計を選択したのかという背景や意図まで含めた共有が必要だ。また、継続的な改善が前提となるため、開発完了後の運用フェーズまで見据えた体制構築が求められる。

1. 設計意図の共有とドキュメント整備

LLMアプリケーションの開発では、なぜその構成を選んだのか、どこまでを再委託先に任せるのかを、設計方針として明文化することが重要だ。従来のシステム開発以上に、設計の背景や意図が結果に大きく影響するためだ。例えば、特定のプロンプト構成を選択した理由や、RAGデータの選定基準、API呼び出しの最適化方針などを詳細に記録する必要がある。

仕様書については、単なる納品物管理ではなく「運用管理の基盤」として機能させることが重要だ。プロンプト構成の変更履歴、外部データ(RAG)の更新ポリシー、パフォーマンス改善の指針など、運用フェーズで必要となる情報を体系的に整理する。これにより、担当者が変わっても継続的な改善を実現できる。

また、LLMアプリケーションは試行錯誤を重ねながら改善していく性質があるため、実験結果やA/Bテストの結果も含めて、意思決定の根拠を明確に記録することが望ましい。これにより、将来の改善活動や類似プロジェクトでの知見活用が可能となる。

2. 開発スコープと責任範囲の明確化

LLMを使ったアプリケーションは新規性が高く、従来のシステム開発とは異なる課題が発生する可能性がある。そのため、どこまでを「要件」とするか、どこからが「改善活動」となるかが曖昧になりがちだ。これを回避するため、契約段階での詳細なすり合わせが欠かせない。

特に重要なのは、エラーパターンやAPI変更への対応方針の明確化だ。LLMサービスは頻繁にアップデートされるため、仕様変更に伴う修正作業がどの範囲まで含まれるかを事前に定義する必要がある。また、将来的なバージョンアップ時の再対応の可否についても、契約前に明確にしておくことで、不要な手戻りを防げる。

さらに、回答精度の目標値や、許容できるエラー率の設定も重要だ。LLMアプリケーションは完璧な回答を保証することが困難なため、どの程度の精度を目指すか、どのような場合にエラーとして扱うかを明確に定義する必要がある。

3. 保守・運用フェーズを見越した引き継ぎ

開発終了後も継続的に利用されるLLMアプリでは、属人化を避けるために包括的な引き継ぎ体制が必要だ。技術スタックの詳細、環境構築手順、利用データのバージョン管理まで含めて、体系的なドキュメントを整備する。特に、初期設定ファイルや使用プロンプト、使用APIの制限事項などは、担当者が変わっても即座に運用できるレベルでの可視化が求められる。

運用マニュアルには、日常的な監視項目、異常発生時の対応手順、定期的なメンテナンス作業などを具体的に記載する。また、改善活動のためのA/Bテストの実施方法や、ログ分析のノウハウなども含めることで、継続的な品質向上を支援する。

さらに、緊急時の対応体制も重要だ。システム障害や予期しない回答が発生した場合の連絡体制、一時的な機能停止の判断基準、復旧作業の手順などを明確にしておくことで、迅速な問題解決が可能となる。

4. 元請けとしての価値発揮

LLMアプリケーションの開発では、「作って終わり」ではなく、継続的な価値提供が重要だ。業務活用を前提とした保守方針の提案、継続的な改善サイクルの設計、他社事例の共有などを通じて、元請け企業としての提案力を示すことが、クライアントとの信頼構築と継続案件の獲得につながる。

具体的には、運用データの分析結果をもとにした改善提案、新しいLLMサービスの活用可能性の検討、業界特有のユースケースの開発など、技術的な実装を超えた価値提供が求められる。また、他のクライアントでの成功事例や失敗事例を匿名化して共有することで、より良いシステム設計に貢献できる。

PMの視点からは、こうした「将来を見据えた協業設計」がプロジェクトの品質と運用性を左右する。最終章では、DIGILOの開発スタンスと導入支援の強みをまとめて紹介する。

DIGILOの開発・提案スタンス|実装から運用まで一貫支援

DIGILOは、ChatGPT APIなどの生成AIを活用したLLMアプリケーションの開発において、技術だけでなく「業務にしっかりと根付く実装」を重視している。単なるシステム構築ではなく、クライアントの業務フローに最適化された実用的なソリューションの提供を目指している。

実装力と運用設計の両立

DIGILOの強みは、構築だけでなく、保守・改善を見据えた構成提案にある。セキュリティポリシーや監査要件を踏まえたAPI管理・ログ設計により、企業の内部統制要件にも対応する。さらに、お客様ごとの環境や技術レベルに合わせた柔軟な構成のカスタマイズを行うことで、導入後の運用負荷を最小限に抑える。

技術面では、最新のLLMサービスの動向を常に把握し、クライアントの要求に最適なソリューションを提案している。また、パフォーマンス最適化やコスト効率化についても、実運用を見据えた提案を行っている。

要件整理から伴走するパートナー

「何から始めればいいかわからない」という段階からの相談にも対応しており、ユースケース設計、プロンプトチューニング、RAG構成など、実務での活用に強い支援体制を整えている。中小規模のプロジェクトに最適なアジャイル的進め方や、予算に応じた柔軟な保守契約も提供している。

初期段階では、クライアントの業務フローの詳細な分析を行い、LLMアプリケーションが最も効果を発揮できる領域を特定する。その上で、段階的な導入計画を策定し、リスクを最小化しながら確実な成果を目指している。

豊富な導入実績

医療・教育・エンタテインメント・コンサルティングなど、多様な業種の現場に対応した開発実績を持つ。「開発だけ」で終わらず、クライアントとともに運用改善サイクルを回していく取り組みも好評を得ている。

各業界の特性を理解し、業界特有の課題に対応したソリューションを提供している。例えば、医療分野では厳格なセキュリティ要件への対応、教育分野では利用者の多様性を考慮したインターフェース設計などである。

LLMアプリケーションの導入は、単なる技術導入ではなく、「業務フローそのものの変革」を含む取り組みだ。DIGILOはその変革に、信頼できる技術力と実務支援力で伴走する。お気軽にご相談いただきたい。

DIGILOからのご提案|LLMアプリケーションの導入・運用でお悩みの方へ

DIGILOは、生成AI・モバイルアプリ・業務特化型ソフトウェア開発の分野で、多様な業界課題の解決を支援している。柔軟なカスタマイズ対応と高度なセキュリティ設計を強みに、企業のビジネス成長を支えるテクノロジーパートナーとして選ばれてきた。

こんなお悩みはありませんか?

  • 生成AIを活用したアプリケーションを検討しているが、何から始めていいか分からない
  • 再委託先に開発を任せたいが、設計意図や保守面まで見通した体制を構築できるか不安
  • 概念実証(PoC)は進んだけれど、業務に展開するには運用やセキュリティが心配

こうした課題は、LLMアプリケーションの導入を検討する多くの企業が抱える共通の悩みだ。DIGILOでは、これらの課題に対して、技術的な解決策だけでなく、組織体制や運用プロセスも含めた包括的な支援を提供している。

DIGILOの実績紹介

これまでに以下のような業界・企業様への導入実績がある。開発や導入に関してお悩みがある際は、ぜひご相談いただきたい。

  • 医療ソフトウェア会社L社:ギャンブル依存症を支援する治療アプリを開発
  • 大学A:学生間の交流を促進するSNSアプリを構築
  • eスポーツ企業D社:次世代型プラットフォームを開発し、新しい収益モデルを創出
  • コンサルティング企業F社:ChatGPTを活用したリサーチ・レポート出力ツールを構築
  • 教育企業L社:顧客対応を効率化するAIチャットボットを導入
  • ヘルスケア企業K社:Azureベースの開発環境構築により保守費用を大幅削減

各プロジェクトでは、単純な技術導入ではなく、クライアントの業務フローに最適化されたソリューションを提供している。導入後の運用支援や継続的な改善提案も含めて、長期的なパートナーシップを築いている。

業界・規模問わず多数の導入実績

まずはお気軽にご相談ください
相談しやすい課題解決の
プロフェッショナルがお悩みを解決します。
お電話も承ってます。
平日10:00-18:00(土日祝除く)
050-3550-0595