はじめに|なぜ今「クラウド前提のインフラ設計」が重要か
近年、業務システムやWebサービスの開発・運用において、「クラウド移行」という言葉を耳にする機会が格段に増えている。従来のオンプレミス(社内サーバー環境)では対応が難しかったスピード感や柔軟性、可用性を確保するため、多くの企業がクラウドへシステム移行を進めている。
しかし実際には、「ただクラウドに移せばよい」というわけではない。クラウド環境に合わせた“インフラ設計の再構築”ができていないために、想定していたパフォーマンスやコストメリットが得られないという声も少なくない。
たとえば、次のような悩みはないだろうか?
これらはすべて、クラウド移行とインフラ設計を“別もの”と捉えてしまったことが原因だ。
DIGILOでは、こうした課題に直面する発注者や開発プロジェクトマネージャーの皆様に向けて、運用・保守・セキュリティまで見据えたクラウド前提のインフラ設計を支援している。
単なる技術導入ではなく、プロジェクト全体のQCD(品質・コスト・納期)に寄与する設計方針とその実践方法を、本記事ではわかりやすく整理して紹介する。
本記事の内容は以下のような方に特におすすめだ。
「クラウドは柔軟だから、後からなんとかなる」そう考えるのは危険だ。クラウドの自由度を活かすには、それに見合う設計思想が必要不可欠だ。
次の章では、まず「クラウドとオンプレミスの違い」について整理しながら、設計の前提を共有する。
クラウドとオンプレミスの違いと、選定の前提
クラウド移行の第一歩は、「そもそもクラウドとオンプレミスでは、何がどう違うのか?」という基本的理解を共有することだ。技術者だけでなく発注者や非エンジニアも同じ前提で意思決定できるようにすることが、プロジェクト成功には欠かせない。
本章では、それぞれの特徴とどのような観点で選定すべきかを丁寧に解説する。
クラウドの特徴と利点
クラウドはインターネット経由でコンピュータ資源(サーバー、ストレージ、データベースなど)を利用する形態。大手クラウド事業者(AWS、Azure、Google Cloudなど)が提供するサービスを、必要なタイミングで必要な分だけ使えることが最大の特徴だ。
クラウドの主な利点:
一方で、コストの予測が難しいことや、自社要件に合わせた制限の存在など注意すべき点もあるため、次に示すオンプレミスとの比較で違いを明確にする。
オンプレミスの特徴と限界
オンプレミスとは、自社で物理サーバーやネットワーク機器を所有・運用するスタイル。従来の社内システムでは一般的が、近年はクラウド移行が進んでいる。
オンプレミスの主な特徴:
ただし、以下の課題が発生しやすい傾向にある:
クラウドとオンプレミスの比較表
比較項目 | クラウド | オンプレミス |
---|---|---|
初期コスト | 低い(従量課金) | 高い(設備投資が必要) |
導入スピード | 数分〜数時間で構築可能 | 数週間〜数か月かかることがある |
スケーラビリティ | 柔軟に拡張・縮小可能 | 物理作業や追加投資が必要 |
管理負担 | クラウド事業者が一部を担う | すべて自社で管理する |
セキュリティ | 責任分界モデルによる共用 | 自社で完全に制御する |
可用性・BCP | 冗長化・災害対応がしやすい | 拠点依存、災害リスクが高い |
どちらを選ぶべきかの判断軸
多くの企業は「クラウド=最新/オンプレミス=古い」という単純な二項対立で判断しがちだが、実際には以下の条件を整理して判断することが重要だ:
そして近年は「必要な部分だけクラウドに置き、残りはオンプレに残す」というハイブリッド構成も選択肢として一般的だ。
次の章では、クラウド移行における5つの代表的方式(Rehost/Refactorなど)と、それぞれに適したケースを詳しく解説する。
クラウド移行でよく使われる5つのパターン
クラウド移行と一口にいっても、その方法はプロジェクトの目的やシステムの状態によって大きく異なる。移行方式を誤ると、予定よりもコストがかかったり、セキュリティ要件を満たせなかったりするリスクがある。
そのため、移行を始める前に「どの方式が自社に適しているか」を検討することが非常に重要である。
ここでは、クラウド移行の代表的な5つのパターンを、わかりやすく整理して紹介する。
1. Rehost(リホスト)|いわゆる“リフト&シフト”
既存のサーバー環境をほぼそのままクラウドに移す方式だ。インフラはクラウド上に移るが、アプリケーションやOSの構成はほぼ変更しない。
こんな場合に向いている:
メリット:
注意点:
2. Refactor(リファクタ)|部分的なコード変更で最適化
アプリケーションの一部をクラウドに適した形に改修(リファクタリング)しながら移行する方式。たとえば、ファイル保存処理をクラウドストレージ(S3など)に変更するなど。
こんな場合に向いている:
メリット:
注意点:
3. Rebuild(リビルド)|アプリケーションをクラウド前提で再構築
アプリケーションをクラウド環境に最適な形でゼロから再構築する方式。クラウドネイティブな設計(マイクロサービス化、CI/CD、コンテナ利用など)が可能になる。
こんな場合に向いている:
メリット:
注意点:
4. Replace(リプレイス)|既存アプリをSaaSに置き換える
既存の社内アプリケーションをクラウドのSaaS(例:Google Workspace、Salesforceなど)に置き換える方式。業務の標準化・効率化を進めたい企業に適している。
こんな場合に向いている:
メリット:
注意点:
5. Hybrid(ハイブリッド)|オンプレとクラウドの併用
すべてをクラウドに移行するのではなく、オンプレとクラウドを適材適所で使い分ける方式。重要なシステムはオンプレに残しつつ、汎用的なシステムはクラウドで運用する構成。
こんな場合に向いている:
メリット:
注意点:
これらのパターンを見てわかる通り、「どの方式を選ぶか」は、技術的な観点だけでなく、業務・コスト・人的体制など複数の要因を踏まえた判断が必要だ。
DIGILOでは、こうした選定においても、「保守まで見据えた構成案」や「セキュリティ要件に基づく責任分界設計」を含めて提案している。
次の章では、実際にクラウド移行プロジェクトをどう進めていくか、6つのステップに分けて紹介する。
クラウド移行プロジェクトの6ステップと設計観点
クラウド移行は、単なる“システムの引っ越し”ではない。業務要件・システム構成・運用体制・セキュリティなど、多くの要素を同時に見直しながら進める必要がある、総合的な設計プロジェクトだ。
ここでは、クラウド移行を成功に導くための6つのステップと、それぞれの段階で重視すべき設計の観点をわかりやすく解説する。
① 移行目的と制約の整理(業務/コスト/可用性)
まず最初に行うべきは、なぜクラウドに移行するのか、その目的とゴールを明確にすることだ。たとえば、「運用コスト削減」「災害対応」「拠点間連携の強化」など、目的によって選ぶ構成も採用するクラウドサービスも変わってくる。
加えて、以下のような制約条件も早い段階で洗い出すことが肝要である。
目的と制約の整理を怠ると、移行後に「使いづらい」「コストが想定外」といった問題に直結する。
② 対象システムの棚卸しと現状分析
次に行うのが、既存システムの棚卸しだ。オンプレミスにあるサーバーやアプリ、バッチ処理、ネットワーク構成などを可視化し、それぞれの役割や依存関係を把握することが求められる。
このフェーズでの主なポイントは以下の通り:
この段階で正確な情報が揃っていない場合、後工程で設計ミスやスケジュール遅延が発生するリスクが高まる。
③ クラウド環境の選定と構成パターン設計
続いて、どのクラウドサービス(AWS、Azure、GCPなど)を使うのかを決定する。加えて、以下のような構成を考慮する必要がある。
このフェーズでは「構築のしやすさ」だけでなく、保守・監視・障害対応のしやすさや、セキュリティとの整合性も考慮することが重要だ。
DIGILOでは、可視化しやすいインフラ構成図を用いて、発注者・受託者間での設計意図の共有を行っている。
④ セキュリティ・ガバナンスの設計(責任共有モデルを意識)
クラウド移行で見落とされがちなのが、セキュリティ設計と責任範囲の明確化だ。クラウドでは「責任共有モデル」と呼ばれる考え方があり、インフラの一部はクラウド事業者が管理するが、設定ミスやアクセス制御はユーザー企業の責任となる。
以下の項目を丁寧に設計・設定する必要がある:
クラウドは「安全な環境」ではなく、「安全に使うための設計が必要な環境」ことを忘れてはならない。
⑤ PoCやリハーサルによるリスク検証
移行前には、必ずPoC(概念実証)や移行リハーサルを行うべきだ。これにより、以下のようなトラブルを事前に回避できる:
特に重要な業務システムや夜間バッチ処理などは、限定的なテスト環境での事前検証を強く推奨する。
⑥ 本番移行と運用設計(監視/アラート/保守体制)
最後に、本番環境への移行を実施し、その後の運用・監視体制を構築することが成功のカギだ。
移行だけで終わらせず、以下のような体制を整えておくことが、クラウド活用の成否を分ける。
DIGILOでは、構築だけでなく、「運用が継続できる設計」を重視した支援を提供している。
次章では、こうした設計が不十分だったために起こる「よくある失敗例」と、それを未然に防ぐためのポイントを事例を交えて紹介する。
よくある失敗と、再発防止のための設計チェック
クラウド移行は柔軟性とスピードを手に入れられる一方で、「設計が甘かったせいで、かえって運用負荷が増えた」というケースも少なくない。
この章では、よくある失敗例を紹介しながら、どこで設計判断を誤ったのか、どうすれば防げたのかを具体的に解説する。
1. 「クラウド=コストが安い」と思い込んでしまう
よくある失敗:
「サーバーを購入しなくていいから、クラウドの方が安くなるはず」と考え、リフト&シフトで既存構成をそのまま移行。しかし、インスタンスのサイズ過多や常時起動によって、オンプレ時代よりもコストが膨らんでしまった。
原因:
防止策:
2. 「クラウド=セキュリティも任せられる」と考えてしまう
よくある失敗:
「クラウド事業者が守ってくれるから安心」と思い込み、アクセス制限やログ監視の設計を怠った結果、管理画面が外部に露出し、不正アクセスが発生してしまった。
原因:
防止策:
3. 運用設計を後回しにしてしまい、移行後にトラブル
よくある失敗:
移行そのものに集中し、運用監視・保守設計を後回しにした結果、障害が起きた際に誰も対応できず、システム停止が長期化してしまった。
原因:
防止策:
まとめ:失敗を「設計」の視点から防ぐ
クラウド移行の失敗の多くは、技術力の問題ではなく、設計・共有不足による認識ズレや対応漏れが原因だ。以下の3点を押さえておくことで、リスクを大きく減らすことができる。
DIGILOでは、技術視点だけでなく、発注者・受託者双方の視点を取り入れた「失敗しないクラウド設計支援」を提供している。
次章では、これらのベストプラクティスを活かした構成例や設計テンプレートを紹介する。クラウド構成のイメージが具体的に湧く内容となっているため、ぜひご覧いただきたい。
DIGILOが推奨するクラウドインフラ構成テンプレート
クラウド移行において、理想的な構成とは「セキュアかつ拡張性があり、運用負荷を最小化できること」だ。DIGILOでは、実際の開発・保守の現場経験を踏まえ、「すぐに使えて、再委託先とも共有しやすいインフラ構成テンプレート」を整備している。
この章では、代表的な3つの構成例をもとに、発注者としての判断材料や、設計意図をどのように共有すべきかを解説する。
1. Webアプリ+API+DB構成|標準的な三層構造モデル
概要:
一般的な業務アプリケーションやWebサービスで使われる、Webサーバー・アプリケーションサーバー・データベースの三層構成をクラウドで最適化したパターンだ。
構成例の特徴:
導入効果:
ポイント:
2. ChatGPT APIや外部AIサービス連携を含む構成
概要:
生成AIなど、クラウド外部のAPIやSaaSを活用した業務支援ツールを構築する際の構成例。
構成例の特徴:
導入効果:
ポイント:
3. 可用性・セキュリティ・メンテ性を両立した実践テンプレート
概要:
複数チーム・長期運用を前提とするプロジェクトでDIGILOが推奨する、“手離れが良く、安全で、成長できる”構成テンプレート。
構成例の特徴:
導入効果:
ポイント:
発注者に求められる「構成意図の共有力」
いくら優れた構成を用意しても、それが再委託先や運用担当者に正確に伝わらなければ意味がない。
DIGILOでは、構成図・通信フロー・責任分界図をセットにした「設計共有パック」を用意し、プロジェクト関係者全員が同じ設計意図を共有できる体制を整えている。
次の章では、この構成共有の重要性を踏まえ、元請と再委託間での設計共有や責任の明確化について解説する。
元請・再委託間での設計共有とドキュメント整備のポイント
クラウド移行プロジェクトでは、元請(発注者側)と開発・保守を担う再委託先(受託開発会社)との情報共有の質がプロジェクトの成否を左右する。
いくら技術的に優れた構成を描けても、それが正しく伝わっていなければ、「意図と異なる設計」や「運用後のトラブル」につながりかねない。この章では、元請として意識すべき設計共有のポイントと、トラブルを防ぐためのドキュメント整備について解説する。
曖昧な仕様を防ぐための構成設計図と責任分界
再委託先が戸惑いやすいポイントの一つが、「自分たちがどこまで設計・保守の責任を持つのか」という境界だ。責任範囲が不明確なまま構築が進むと、次のような問題が起こりやすくなる。
これを防ぐには、以下のようなドキュメントの整備が有効だ。
DIGILOでは、これらをプロジェクト開始時に「設計共有パック」としてセット提供し、全関係者の共通理解を促進している。
再委託先に伝えるべき「運用しやすさ」視点
多くのトラブルは、設計が「構築しやすさ」だけに偏ってしまい、「運用のしやすさ」が設計に反映されていないことが原因だ。
元請としては、次のような運用視点を再委託先と共有することが重要となる。
特にクラウドでは、設定一つでセキュリティやコストに影響が出るため、属人的な判断ではなく仕組みとして定義することが求められる。
トラブル時の切り分け基準と事前合意事項
問題が発生した際、「どこまでが誰の責任か」が曖昧なままでは、対応が後手に回り、ユーザーへの影響が大きくなってしまう。
そのため、あらかじめ“切り分けルール”や“連絡体制”を定めておくことが重要だ。
例えば、以下のような観点で整理しておくとよい。
こうしたトラブル時の“責任境界”と“合意済み対応フロー”があるだけで、対応のスピードと品質は格段に向上する。
設計共有は「ドキュメント+対話」で
いくらドキュメントが揃っていても、それだけでは本当の設計意図は伝わらない。特にクラウドの構成は柔軟性が高いため、「なぜその構成を選んだのか」「どのような運用を想定しているのか」といった設計者の思考を対話で共有する場が必要だ。
DIGILOでは、図解資料と対話をセットにした「キックオフ設計レビュー」の場を設け、元請・再委託の垣根を超えて設計思想をすり合わせるプロセスを推奨している。
次の章では、これまでの知見を踏まえ、クラウド移行とインフラ設計を成功させるためのまとめと、発注者が取るべきアクションを紹介する。
まとめ|インフラ設計×クラウド移行で成果を出すために
クラウド移行は、単なる技術トレンドの追随ではなく、事業成長や業務効率化を実現するための重要な変革の一歩だ。そして、それを支えるのが「インフラ設計」の質だ。
本記事では、クラウド移行における基本的な考え方から、代表的な移行パターン、設計・運用・セキュリティの実践知までを紹介してきた。改めて、発注者として押さえておきたい重要ポイントを以下に整理する。
1. インフラ設計は“運用まで含めて”考える
設計段階でパフォーマンスやセキュリティ、将来的な拡張性まで視野に入れておくことが、移行後の運用トラブルやコスト増を未然に防ぐ鍵となる。
特に、ログの設計、障害時のアラート設計、構成変更の履歴管理(IaC)など、「使い続ける視点」が設計に含まれているかが重要だ。
2. 設計意図は再委託先とも“共通言語”で共有する
クラウドは柔軟がゆえに、設計者の意図が伝わらなければ、実装が部分的にズレてしまい、全体の整合性が崩れるリスクがある。
そのためには、構成図や責任分界図だけでなく、「なぜこの構成にしたのか」という背景や目的を共有できるドキュメントと対話の場が必要である。
3. 経験ある技術パートナーと“上流から伴走する”ことが成功の鍵
クラウド移行は、要件定義・設計・構築・移行・運用と、すべてがつながっているプロジェクト。特にセキュリティやガバナンス、再委託の管理に課題がある企業ほど、上流から一貫して伴走できる技術パートナーとの連携が成功の確率を高める。
DIGILOでは、単なる構築支援ではなく、「発注者視点で考える設計と提案力」を強みに、クラウド移行の構想段階から保守体制の整備まで、ワンストップで支援している。
次の一歩を踏み出すために
このような課題を感じている方は、まずは設計の棚卸しや可視化から始めることをおすすめする。
DIGILOでは、無料相談や構成診断を通じて、最適な移行戦略の立案から伴走可能だ。
DIGILOからのご提案|クラウド移行を見据えたインフラ設計支援をご検討中の方へ
DIGILOは、生成AI・モバイルアプリ・業務特化型ソフトウェア開発の分野で、多様な業界課題の解決を支援してきた。
柔軟なカスタマイズ対応と高度なセキュリティ設計を強みに、企業のビジネス成長を支えるテクノロジーパートナーとして選ばれている。
こんなお悩みはないだろうか?
DIGILOでは、これまでに以下のような業界・企業への導入実績がある。
相談は無料なのでプロジェクトの構想段階からでも、ぜひ安心してご相談いただきたい。
DIGILOのテクノロジーがあなたの次の一手を一緒に考える機会になれば幸いだ。