なぜ伝わらない?技術者の提案が経営層に響く説明資料の作り方【構成のポイント解説】

テクノロジーテック記事
2025年07月18日

 

はじめに:なぜ「経営層向けの資料」は技術職にとって難しいのか?

技術者の常識は、経営層には非常識?

技術者が心血を注いで作り上げた説明資料。しかし、経営層から「わかりにくい」という厳しい評価を受けてしまう。このような光景は、多くの企業で日常的に繰り返されている。

これは技術者のスキル不足が原因ではない。根本的な問題は、情報の受け取り方に大きな違いがあることだ。経営層は毎日膨大な数の提案書や報告書に目を通す必要がある。そのため、一つの資料にかけられる時間は限られており、彼らが求めるのは「仕様の正確性」や「論理の完璧性」ではなく、判断に必要な情報がいかに簡潔に示されているかである。

一方で技術者は、正確性や論理構成の完璧さを何より重視する。技術的な背景や詳細な仕様を丁寧に説明することから始めがちだ。しかし、この姿勢が経営層との間に深い溝を生む原因となっている。経営層が知りたいのは「技術の詳細」ではなく「ビジネスへの影響」なのである。このギャップを理解し、埋めることが効果的な資料作成の出発点となる。

経営層の視点は「リターン」と「意思決定」

経営層は企業のリソース配分と戦略的な意思決定を担う立場にある。新しい技術提案や導入案に対しても、常に「なぜ今この投資が必要なのか」「期待できるリターンは何か」「想定されるリスクはどの程度か」という視点で評価を行う。

彼らの判断基準は技術的な優秀さではなく、事業への貢献度である。どれほど革新的で優れた技術であっても、ビジネス価値が明確に示されなければ、投資対象としては魅力を感じない。技術者が「この技術は素晴らしい」と熱弁しても、経営層には「だから何?」という反応しか生まれないのはこのためだ。

本記事では、技術者が経営層の視点を理解し、より効果的な説明資料を作成するための実践的な手法を解説する。技術的な専門知識を、ビジネス価値として翻訳する方法から、具体的な資料構成のテンプレートまで、順を追って詳しく紹介していく。

経営層に伝わる資料の3原則

① 「ビジネスインパクト」から入る

経営層が資料を手にした瞬間、最初に知りたいのは「この提案が自社のビジネスにどのような影響をもたらすか」である。したがって、資料の冒頭では技術的な仕様や開発背景ではなく、ビジネスインパクトを明確に示すことが重要だ。

例えば「ChatGPT APIの導入」を提案する場合、技術的な機能説明から始めるのではなく、「月間200時間の顧客対応業務が自動化される」「年間300万円のコスト削減が実現できる」「セキュリティリスクは既存の認証システムで対応可能」といった具体的な効果を最初に示す。

この手法により、経営層の関心を冒頭で引きつけることができる。彼らは「この技術がどう動作するか」よりも「この技術によって何が変わるか」に関心がある。ビジネスインパクトを先に示すことで、その後の技術説明も「なぜその技術が必要か」という文脈で理解してもらえる。数値で示せる効果があれば必ず定量的に表現し、抽象的な表現は避けるべきだ。

② 「結論→理由→補足」で構成する

経営層向けの資料では、「結論→理由→補足」という逆三角形の構成が最も効果的だ。これはジャーナリズムの基本構造でもあり、短時間で判断を下したい読み手にとって最もストレスの少ない情報の流れである。

具体的には、「新しい開発フレームワークの採用」を提案する場合、まず「Spring Bootの採用を推奨します」という結論を示す。次に「既存システムとの互換性が高く、開発効率を30%向上させるため」という理由を述べる。最後に「導入実績が豊富で、長期的な保守性も確保できる」という補足情報を加える。

この構成により、経営層は最初の数秒で提案の全体像を把握できる。時間がない場合は結論部分だけを読んで判断することも可能だ。また、詳細な検討が必要な場合は理由や補足部分を参照すればよい。技術者が陥りがちな「背景から順を追って説明する」構成は、経営層には不向きである。

③ 詳細はAppendix、判断材料は本文に

技術者は正確性を重視するあまり、資料に詳細な数値データや技術仕様を盛り込みたがる。しかし、経営層が求めるのは「判断に必要な情報」であり、「技術的な正確性」ではない。したがって、詳細な技術情報は本文に含めず、Appendix(付録)にまとめるのが適切だ。

例えば、システムの性能比較を示す場合、本文では「A方式はB方式より平均20%高速で、コストも15%削減できる」という要点のみをグラフで示す。一方、Appendixには詳細な測定環境、計測条件、生データを記載する。これにより、経営層は判断に必要な情報を素早く把握でき、技術チームは必要に応じて詳細を確認できる。

この手法は資料の読みやすさを向上させるだけでなく、信頼性も同時に確保する。経営層は「この提案者は要点を整理して伝える能力がある」と評価し、技術チームは「必要なデータはすべて揃っている」と安心できる。バランスの取れた資料構成が、多様な関係者の満足度を高める。

技術要素をわかりやすく伝えるには?

抽象的な表現ではなく、たとえ+図解で可視化

経営層にとって技術用語や複雑なシステム構造は馴染みがない。専門用語をそのまま使用すると、理解の障壁となり、提案の価値が正しく伝わらない。この問題を解決するには、身近な例えと視覚的な図解を組み合わせることが有効だ。

例えば、APIを「機能の出前サービス」、キャッシュを「よく使う道具を手元に置く引き出し」、LLMを「社内のベテラン社員に何でも相談できるチャットサービス」といった具合に、ビジネスの感覚に近い表現で説明する。これにより、抽象的な技術概念も身近に感じられる。

さらに効果的なのは、文章による説明と図解の組み合わせだ。システムの構成図、処理フロー図、ステップチャートなどを活用することで、技術的な関係性や処理手順、期待される効果を一目で理解できる。特に経営層は視覚的な情報処理を好むため、図解による説明は非常に効果的である。ただし、図解も複雑になりすぎないよう注意が必要だ。

ChatGPT APIなどの説明テンプレ

生成AIやAPI技術のような最新技術は、特にビジネスへの影響が見えにくいと指摘されることが多い。このような技術を説明する際は、以下の3点セットで整理することが効果的だ。

  • 何ができるか:例えば「社内でよく発生する問い合わせに対して、人間と同等の精度で自動回答できる」
  • なぜ今導入すべきか:例えば「AIモデルの精度が実用レベルに達し、セキュリティ機能も充実したため、本格活用が可能になった」
  • 何が変わるのか(定量効果):「1次対応の平均時間が3分から10秒に短縮」「担当者の業務負荷が30%削減」「顧客満足度の向上により問い合わせ再発率が15%減少」など

技術の価値を「経営の問い」に翻訳する

経営層の関心は常に「リスクは?」「費用対効果は?」「実現可能性は?」といったビジネス判断に関わる問いに集中している。技術者は自らの専門的視点を、経営層の関心事に翻訳して伝える必要がある。

例えば「このシステムは軽量で実装が簡単です」という技術的な説明を「導入コストが従来の50%で済み、3ヶ月以内の短期導入が可能です」と翻訳する。「非同期処理を採用しています」は「業務が集中する時間帯でも、システムの応答速度が低下しません」と言い換える。

このような翻訳により、技術的な特徴がビジネス価値として明確に伝わる。経営層は技術そのものではなく、その技術がもたらす事業上のメリットに関心がある。技術者が持つ専門知識を、経営層が理解できる言葉で表現することが、効果的なコミュニケーションの鍵となる。

説明資料のテンプレと構成法

課題→解決策→効果→アクションの流れ

経営層が最も理解しやすい資料構成は、「課題→解決策→効果→アクション」という論理的な流れである。この構成により、提案の必要性から具体的な実行計画まで、判断に必要な情報が順序立てて提示される。

まず現状の課題とそれに伴うリスクを明確に示す。「FAQ対応業務が特定の担当者に集中し、1件あたり平均3分の対応時間が発生している。担当者の負荷が限界に達しており、対応品質の低下や離職リスクが懸念される」といった具合だ。

次に提案する解決策を具体的に説明する。「ChatGPT APIを活用した自動応答システムを導入し、定型的な問い合わせの80%を自動化する」。そして期待される効果を定量的に示す。「1件あたりの対応時間を10秒に短縮し、年間で約800時間の業務削減を実現。コスト換算で年間240万円の削減効果」。

最後に具体的なアクションプランを提示する。「来月からPoCを開始し、1ヶ月以内にプロトタイプを完成させる。その後2ヶ月で本格導入を完了する」。この流れにより、経営層は提案の全体像を把握し、適切な判断を下すことができる。

よくある失敗例と改善法

経営層向けの資料作成では、技術者が陥りがちな失敗パターンがいくつか存在する。これらを事前に理解し、適切な対策を講じることで、資料の品質を大幅に向上させることができる。

最も多い失敗は、1枚のスライドに複数の要素を詰め込んでしまうことだ。技術者は情報の漏れを恐れるあまり、関連する内容をすべて一つのスライドに収めようとする。これを避けるには「1スライド1メッセージ」の原則を徹底し、伝えたい内容を適切に分割する必要がある。

また、用語や前提条件が技術者の視点で書かれていることも多い。「Docker環境での運用」ではなく「運用コストを30%削減する軽量な実行環境」というように、経営層が理解できる表現に置き換えることが重要だ。

さらに「できること」の羅列に終始し、肝心の効果や判断基準が不明確な資料も散見される。「なぜこの提案を採用すべきか」「導入により何が変わるのか」を最優先で伝える構成に修正すべきだ。資料の目的は情報の伝達ではなく、適切な判断を促すことである。

プレゼン時の話し方も資料の一部

完璧な資料を作成しても、プレゼンテーションの方法によって伝わる印象は大きく変わる。経営層向けの説明では、資料の内容だけでなく、話し方や進行方法も重要な要素となる。

プレゼンの冒頭では必ず「この資料の目的は○○に関する判断材料を提供することです」と明確に伝える。これにより、聞き手は何を期待すべきかを理解し、適切な姿勢で臨むことができる。

また、スライドの内容をそのまま読み上げるのではなく、要点を自分の言葉で補足説明することが重要だ。1スライドあたり30秒から1分程度で要点を伝え、聞き手の理解度を確認しながら進行する。

さらに、質問に対して柔軟に対応できるよう、話す順序にも配慮が必要だ。経営層から想定外の質問が出た場合でも、適切なスライドに戻って回答できるよう準備しておく。プレゼンテーションは演出ではなく、関係者間の共通認識を形成する重要な機会である。

実務で使える資料テンプレと図解例

よく使われるスライド構成パターン

経営層に効果的に伝わる資料を作成するには、実績のある構成パターンを活用することが重要だ。以下のような標準的な構成は、多くの企業で採用されており、再利用性も高い。

タイトルスライドでは、提案名、作成日、担当者名、資料の目的を簡潔に示す。続く要点まとめスライドで、結論、推奨事項、意思決定ポイントを冒頭に配置する。これにより、時間のない経営層でも重要な情報を素早く把握できる。

現状課題スライドでは、背景、現在の影響、将来のリスクを視覚的に示す。提案内容スライドで解決策の概要と選定理由を説明し、導入ステップまたはスケジュールスライドで実行計画を明示する。効果試算スライドでは、数値による改善効果をKPIベースで算出し、説得力を高める。

最後に補足資料(Appendix)として、他社比較、技術的な詳細、よくある質問への回答を用意する。このように各スライドに明確な役割を持たせることで、資料全体の論理性と見通しが格段に向上し、経営層の理解と判断を促進できる。

経営層に刺さる図の選び方

効果的な図解は、複雑な内容を瞬時に理解させる強力な武器となる。経営層への説明では、伝えたいメッセージに最適な図解形式を選択することが重要だ。

ステップ図は導入プロセスや対応手順の説明に適している。左から右への時系列表現により、変化の流れが明確に伝わる。BEFORE/AFTER図は改善前後の比較に効果的で、提案の効果を視覚的に示すことができる。

フローチャートはシステム構成や業務フローの説明に最適だ。関係性と処理の流れが一目で理解できるため、複雑なシステムも分かりやすく伝えられる。KPI比較チャートは数値インパクトの視覚化に威力を発揮する。変化率、削減率、ROIを棒グラフで表現することで、定量的な効果が明確になる。

3分割構成図は、特徴・メリット・活用例などの整理に便利だ。重要なポイントを3つに絞って提示することで、記憶に残りやすく、理解しやすい構成となる。いずれの図解も「判断に必要な情報がどこにあるか一目で分かる」ことを最優先に設計すべきだ。

説明力は、再委託・発注時にも役立つ

「再委託先への発注資料」も経営層向け資料の応用形

経営層向けの説明資料で培った構成力と説明スキルは、協力会社や再委託先への発注時にも大いに活用できる。実際の開発現場では、要件の曖昧さや目的の不明確さが原因で、様々な問題が発生している。

「要件が抽象的で、実装段階で認識の相違が発生する」「プロジェクトの背景や目的が共有されず、提案内容が的外れになる」「技術的な制約条件や保守性への配慮が事前に伝わっていない」といった課題は、発注資料の構成と説明方法を改善することで大幅に軽減できる。

重要なのは、経営層向けの資料と同様に「なぜこの開発が必要なのか」「期待する成果は何か」「成功の判断基準はどこにあるか」を明確に伝えることだ。再委託先にとっても、単純な仕様書より、背景と目的が明確な資料の方が、より適切な提案と実装を行いやすい。発注者と受注者の認識を合わせる効果的な手法として、経営層向け資料の構成法は非常に有効である。

中間レビューで意思決定を引き出す

プロジェクトの中間レビューでは、単なる進捗報告ではなく、経営層やマネージャーから明確な判断を引き出すことが重要だ。そのためには、選択肢と推奨理由を明示し、意思決定を促す構成の資料が必要となる。

例えば「A案とB案の技術選択について、コスト面ではA案が有利だが、将来の拡張性を考慮するとB案を推奨します。ご判断をお願いします」という形で、判断材料と推奨理由を明確に示す。また「現在の進捗状況を踏まえ、次フェーズのスコープを当初計画から一部変更することを提案します」といった具合に、現状分析に基づく提案を行う。

この際も「課題→解決策→効果」の基本構成が効果を発揮する。単純なYes/Noではなく、Why(なぜそうなのか)とHow(どう実現するのか)を軸とした議論を誘発する資料設計が重要だ。レビューの目的を「報告」ではなく「判断の促進」に置くことで、プロジェクトの推進力と品質を同時に向上させることができる。

まとめ:資料は「判断と共感を引き出す」ビジネスツール

経営層向けの説明資料の本質は、情報の羅列ではなく、適切な判断を促すことにある。目的は相手に「理解させる」ことではなく、「判断してもらう」ことだ。

そのためには、ビジネスインパクトを冒頭に配置する構成、結論から理由、補足へと続く論理的な流れ、そして技術的な内容を経営言語に翻訳し視覚化する工夫が不可欠である。

これらの資料作成スキルは、経営層への提案だけでなく、再委託先との連携やプロジェクトレビューにも応用できる。資料は単なる文書ではなく、チームの合意形成とプロジェクト推進の原動力そのものである。

「伝わる資料」を作成する能力は、技術者にとって今後ますます重要なビジネススキルとなる。自らの技術がどのように社会やビジネスに貢献するかを正確に、そして簡潔に伝える力を、今こそ身につけるべき時である。

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  • 医療ソフトウェア会社L社:ギャンブル依存症を支援する治療アプリを開発。技術的背景と成果を経営層に伝える提案資料の作成支援を実施
  • 大学A:学生間の交流を促進するSNSアプリを開発。学内の稟議通過に向けて、企画から導入までの資料設計をサポート
  • コンサル企業F社:ChatGPTを活用したリサーチ・レポート出力ツールを構築。企画段階で経営層を巻き込むプレゼン設計を支援
  • eスポーツ企業D社:次世代型プラットフォームを開発。事業責任者向けの「判断しやすい仕様説明資料」を共同で整備
  • 教育企業L社:AIチャットボット導入により顧客対応を効率化。導入前の社内説明資料とKPI効果試算の整理も支援

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