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【第4回 ジブンハウスシンポジウム:セミナーログ】デジタル世代の住宅の買い方と変化(シリコンバレーの最新バーチャルリアリティ事情)

髙橋 広嗣

株式会社フィンチジャパン 代表取締役

2018年4月17日、六本木のパラッツォドゥカーレ麻布において『第4回 ジブンハウスシンポジウム』が開催されました。その中で、株式会社フィンチジャパン代表取締役の高橋広嗣が登壇。住宅市場のマクロデータからデジタル世代の住宅の買い方と変化までセミナーでお話をしました。今回は、その内容をお伝えします。

高橋:株式会社フィンチジャパンという会社は出来てから12年程経ちますが、様々な企業の新規事業をお手伝いしている会社です。12年間で延べ80事業くらいは立ち上げておりまして、一番大きな事業ですと300億くらいの事業をゼロからやることもお手伝いしています。 今日は4つほどお話をしたいと思います。
フィンチジャパン代表 高橋広嗣
1つ目は「新設の住宅戸数が2018年どうなるか」ということについての簡単な見通しです。 2つ目は住み手の変化ということで、「実際に家を買われるお客様自身にどんな変化が起きているのか」ということをお話したいと思います。 3つ目に去年から今年にかけて実際に「ジブンハウスの家を買った家族の皆様のお話」を聞いてきておりますので、そのインタビューをお話したいと思っています。 最後にジブンハウスさんはバーチャルリアリティという技術を使っておりますが、この「VR技術は本当に日進月歩でものすごい速度で進んでいる」ので、その話を少しだけして終わりにしたいと思います。

1. 2018年、新設の住宅戸数がどうなるか

まず1つ目です。今年の2月に国交省から発表がありましたが、着工総数としては約96.5万戸で、全体としては減少傾向にあるということが発表されました。96万戸の内訳は、相続税対策でアパートの割合が伸びたので下げ幅がとどまりましたが、今後はアパートの住宅戸数もより厳しくなるというのが国交省の見立てになっています。 ご存知の方もいらっしゃるとおり、日本の人口の減少はもう既に始まっているんですが、2019年からは世帯の減少も始まってきます。人口の減少そのものはコンビニやスーパーの個人消費には影響を及ぼしますが、家とか車とか、いわゆる世帯で持っていくものに関してはまさにこれから減少の影響を色濃く受けてくる可能性が大きいというふうに言われております。私は5年前から100自治体くらい回って、100人以上の町長さんに会ってきたんですが、6万人を切ってくる市・町は本当に今大変な時期に来ていまして、空き家や行政サービスの問題等、本当にいろんな問題に直面しています。
住宅投資およびリフォーム市場規模の推移

リフォームは住宅産業を下支えしない

一時期はリフォームのマーケットが住宅産業を下支えするのではないかと言われた時期もありましたが、このグラフの一番下の緑の線がリフォームの事業です。上に書いてある赤いプロットが新築の住宅の個数です。その合計値が青になっておりまして、見ていただきますとわかりますとおり、リフォームのマーケットというのは横ばいなんです。 高齢化が進んで家の老朽化が進んで、確かにバリアフリーや建て替えが必要になりますが、現実として見てみるとリフォームというマーケットが住宅産業の下支えにはならないんじゃないかということについてはほぼ周知の事実になってるわけです。ですので、この新築建物のダウントレンドの中で我々はどうやってビジネスをしていくのかということが住宅産業の中で今大きな課題になっていると言えると思います。

住宅産業の転換期

今後、消費税の10パーセント増税があります。増税が2019年なのか2020年なのかは揺れ動くと思いますが、増税前の駆け込み事業があったとしても、より右肩下がりの傾向になるのは間違いない。野村総研によれば、最大90万戸や100万戸あった時代から55万戸くらいまでくるのではないかという見通しが出ています。今までの家の売り方、建て方だけだと厳しくなるのが見えています。一人で監督と設計とマーケティングをやって、年間で3棟や4棟建てるというような商売方法が、もしかすると業界に非常に大きな影響を起こすかなと見ています。

空き家問題

あとは空き家の問題も今日本全体の大きな問題になっています。2030年には空き家が2000万戸になるというふうに言われているんです。全世帯が4000万世帯しかありませんから、2000万戸の空き家があるというのは大変な問題になってくるわけです。こういった問題を各地方がどう対応するかというのが徐々に大きな問題になってきているということです。 ですので、ジブンハウスさんの加盟店も今いろいろな形で新しい取り組みをされていますが、市場全体で見ると非常に厳しい状態にあります。だからこそ今までにないやり方を積極的に取り込んでいく必要がある時代に来ているということです。

2. 実際に家を買う顧客の変化

戸建注文住宅の世帯主年齢分布(全体)
2つ目はお客様自身の変化です。図は左から20代、20代後半、30代前半、30代後半となってまして、これは昔から変わりませんが、家を買う世代というのが一番多いのは30代です。晩婚化が進んで結婚される方が少し後ろになったので、40代で新築を買う方が今右肩の傾向にあります。

インターネットと育ったミレニアル世代

この30代という方々はどういう方々かというと、よく言われるのがミレニアル世代です。いわゆる2000年前後に生まれた世代のことをミレニアル世代と言いますが、そういう世代から30台前半までの方々というのは物心ついた頃から目の前にはインターネットがあって、高校生の頃には普通にスマホをやるというそういう時代なんです。 私は40代なので、残念ながらミレニアル世代ではありませんが、彼らは最初からインターネットで検索したり、スマートフォンで友達と会話したりするのがあたり前なんです。 人と話す前にまずLINEとかフェイスブックでその人を確認するのがあたり前という、そういう世代なんですね。

なぜおでんを若者が買わないのか

ちなみに私は去年、おでんという商品の市場調査をしたんですが、コンビニのおでんはこの5年で売上が半減しているんです。40代、50代、60代の方はおでんを食べる量が減っているという感覚は無いんですが、20代、10代の方々はほとんどおでんは食べないんです。 コンビニでおでんを買わない方々にインタビューをしたんですが、一番の理由は何か分かりますか。『不味いから』じゃないんです、『高いから』でもないんです。 『レジで後ろに待っている方達からのプレッシャーが嫌』だからです。そう答えた方がなんと70パーセント。つまり、そのぐらい周りの声がどうなっているかということを極端に気にする世代なんですね。ですので、押し売り営業マンとかよくかかってくる電話とか、そういったものは我々以上に極端に嫌う傾向にあるんです。

スマートフォンを持っているだけで得をするCoke ON(コーク オン)

これはご存知の方がいるか分かりませんが、今は日本全国で30万台もコカ・コーラの新しい自販機があるんです。Coke ON(コーク オン)自販機というんですが、これは今ものすごい勢いで伸びています。どういうことかというと、自分が持っているスマホをその自動販売機のそばに近寄って普通に自動販売機で買うだけで、自分が日本中全国のコカ・コーラの自動販売機で何回買ったかということが分かる仕組みなんですね。同じ自動販売機じゃなくてもコカ・コーラのCoke ONの自販機で買えば、買うだけスタンプが溜まって無料で自動販売機からコカ・コーラが買えるという仕組みなんです。つまり、スマートフォンを持っているだけで得になるというサービスが10代、20代を中心に広まったんですね。 でも、そういう情報すら、実は40代、50代、60代の人には入らないんです。入らない間にわずか3年間で100万台の自販機の5分の1がこのCoke ON自販機に切り替わっていったんですね。そのくらいデジタルの話というのはあっという間に広まってあっという間に普及するということです。

スマートフォンが与える産業への影響

つまり、スマホ以前の世代というのはこうだったんですけど(図A)、スマホ以後の電車はこうですよね(図B)。写真を撮る時で言えば、スマホ以前はこうですが(図C)、スマホ以後はこうですよね(図D)。つまり、あらゆる産業がスマートフォンに大きな影響を受ける時代になっているわけです。 当然、我々が家を買う時にもスマートフォンという役割は非常に大きくなっていくわけですね。それはどういうことかというと、極端なことを言うと「スマートフォンで情報の検索が出来ない商品・サービスは買わない」と答える人達が今60パーセントを超えていて、この情報収集が物を買う決め手になっていると言われているわけです。ですので、加盟店の皆様がいかに最初の情報収集とその情報収集の更にきっかけとなる最初の部分でお客様と出会うかどうかというのが実は非常に重要になってくるんですね。

3. ジブンハウスの家を買った家族の話

家の中のVR探索体験
3つ目は、実際にジブンハウスのオーナーさんにお話を聞いてきましたので、簡単にですがお伝えしたいと思います。 まず、家を買いたいと思うきっかけは、「新築に住みたい」ではないということです。例えば「子供にもうちょっと広い部屋をあげたい」あるいは「共働きでもう少し家で過ごす時間が欲しい」そういうライフスタイルの変化です。一番多いのは、「ちょっと手狭だな」と思った時だそうです。我々がインタビューした中でも、新築を買いたいのではなくて、「引っ越したい」「中古マンションを探してる中でたまたまジブンハウスを知って」「たまたま自分達の予算に合ったので」……、偶然ジブンハウスの家を買えたというお客様が非常に多かったんです。昔の昭和時代は持ち家というのは新築だったんですが、実は今はそういう発想から家を買うという検討するわけではないということです。

打ち合わせの裏で何度も相談をしている

『わずか5回の打ち合わせで成約した』という成功事例がありましたね。あれは営業をする方々からすると5回の打ち合わせで決まっているように見えるんですが、おそらくお客様はその5回の打ち合わせのために何十時間もスマホでチェックをされているんです。一番多いのは見積もりを夫婦で別々のスマートフォンでやって、夜中に「いっせいのせ」で見せるそうです。一番モメるのはキッチンの選択が一番モメましたという話をするんですね。 今日本で共働きの比率は75パーセントを超えているんです。その中で多くの方々が共働きをしながらお子様を育てていくので、結局真剣にゆっくり何かを検討する時間というのは9時、10時、11時過ぎ、つまり皆様のお店が閉まった後に検討が始まるんですよね。そういった方々は家に帰ってもお店で出来るような検討が出来るということが結果として納得する検討時間になっているんです。私が家を買った時代と比べるとむしろたくさんの時間を使っている時代が来ているなと痛感しますね。

「自分達はこういう物が欲しい」

あとは先ほどのミレニアル世代の話にありましたように、工務店に行っていきなり営業や施工のプロの方から「あれが良い」「これが良い」と勧められる前にあらかじめ自分達の中で何かしらの答えを持っていたり、「自分達はこういう物が欲しい」ということを思っていたりという方が多かったですね。ですので、事前見当をしっかり出来るツールがきちんと提案されているのがいいという方々が非常に多かったかなと思います。 非常にリーズナブルな価格、分かりやすい選択肢、いつでもどこでも検討が出来る。この3つの言葉を加盟店さんごとに上手に言葉を作っていただいて、お客様にぶつけていただけると非常に満足いただけるような家が出来ることを提案出来るかなと思います。

中古の戸建てと都心のマンションから、規格住宅へ

我々はジブンハウスさんと定量調査を一緒にさせていただきましたが、こういう新しい家の開拓のターゲットは、実は新築展開をしているお客様だけではなくて中古の一戸建てを検討しているお客様、それから都心部ですとマンションを検討しているお客様も非常に満足度が高いという結論がデータ的にも実証されています。ですので、中古の一戸建てを検討されているというお客様も十分ジブンハウスにスイッチする提案の機会があるということも一緒にお伝えできればと思います。

VRは身近な技術として認知されている

あと、バーチャルリアリティということについてどのくらいお客様が認知されていてどのくらい人気があるのかというお話です。実は全国2000人の調査をしたんですが、家の住み替えをする予定があるという方々の中で、約58パーセントの人達がこういうバーチャルリアリティを使ってみたいという回答がありました。ですので、バーチャルリアリティというのは決して未来の技術ではなくて本当に今ある技術であり、我々の身近にある技術だということが、我々自身よりもお客様のほうが早く認知されているということがデータでも実証されていると思います。 バーチャルリアリティの利用についてのポジティブな意見では、一番イメージが湧くとか、話を長く聞くよりも一発で直感的に分かるというような話がありました。一方では、やっぱりバーチャルリアリティでは足りない。家が買えるほど納得は出来ないので、やっぱり直接説明を聞きたい。あるいは実際に見たいという声が、ネガティブな意見としてありました。ですので、バーチャルリアリティで全てが代替されるのではなくて、五感ツールの一つとしてお話出来ればいいと思います。あとは、バーチャルリアリティは安全性が分からないんです。耐震性や建物の性能が分からないので、こういうのはきちんとプロの方のサポートが必要だということが分かります。

4.海外のVR事例

シリコンバレーの住宅業界向けVR「Matterport」
4つ目、最後のお話として、バーチャルリアリティというのは今どんどん変わってきていますので、その一部をお伝えして終わりにしたいと思います。

空間3Dスキャンカメラ:Matterport

これはアメリカのシリコンバレーで最も成功している住宅向けのMatterport(マターポート)というサービスです。これは家の中で非常に簡単なカメラを設置して、その部屋ごとにカメラで撮るだけで勝手にインターネット上でその部屋同士をつなげてくれてこんなふうに高精細に家具を動かすことが出来るわけです(図E)。 今、提供しているのはバーチャルリアリティという仮想のものですが、Matterportが提供しているのはお客様が買った後の、例えば現地見学会の補完であったり、あるいは現地見学会だけでは出来なかったものを自宅でサポートしたり、あとは三次元だけではなく、例えばここをこんなふうに全体像と間取りを見せるというような3Dモデリング技術をなんと一回15ドルでやってくれるというサービスです。 日本ではおそらく2,3年後には登場すると思いますが、データをクラウドに上げて、プロジェクターだけではなく4Kで見ると本当に家の中にいるような高精細の画面で、とても家だと思えない、というようなサービスがわずか15ドルで提供される、こういうのが2、3年後にはどんどん日本にも登場する時代がもう来ているかなと思っております。 ですので、皆様自身がこういうバーチャルリアリティを上手に使っていくということが新しい技術を自分達の商売道具にする中では私は決して間違っていない方法だと思いますので、是非そういったツールを使いながら、でも最後にはお客様には対面で接するということをやっていただればと思っております。

Profile

髙橋 広嗣 株式会社フィンチジャパン 代表取締役

早稲田大学大学院を修了。野村総合研究所経営コンサルティング部入社。経営戦略・事業戦略立案に関するコンサルティングを実施。2006年に当社を創業し現在に至る。以来、一貫して事業開発プロジェクトとスタートアップ投資を行っている。対外活動も積極的に行っており、顧客満足を科学した結果を発表したり、宣伝会議講座では事業開発の講義も実施している。『半径3メートルの「行動観察」から大ヒットを生む方法』を刊行。